バーダー・マインホフ理想の果てに
初めは圧政に対する抗議だったのが、いつの間にか武力闘争を経て、テロ集団になってしまう。村上龍氏の「愛と幻想のファシズム」 に名前が出てくるので記憶していただけですけれど、とんでもない集団です。この国にも日本赤軍がいたわけですけれど、さすがドイツ人だけに徹底して容赦のない手口は凄まじい。特に銃を所持しているので、銀行強盗、要人暗殺はお手の物で、海外の組織とも連携して、いち早くテロ行為をグローバル化(「ミュンヘン」でも描かれた事件)。
これを見ていると決して過去のことではなく、今のテロリストの問題に続く、発端のような部分を我々は垣間見ることが出来ます。そして非常に客観的に描くことで、革命家との違いが浮き彫りに。劇中学生達が支持するチェ・ゲバラ氏(「チェ28歳の革命」、「チェ39歳別れの手紙」)が最も分かりやすいですけれど、彼は国連でも演説するし、ボリビアに渡り、大衆の理解を得ようと努力します。
ひるがえってドイツ赤軍の連中は、殆ど憂さ晴らしでもするようにデパートに火をつける。そしてどんどん過激になっていく。でも実は貧困家庭に生まれて苦労をしているわけではないから、軟弱な側面もあって、連携しているイスラムゲリラの連中を呆れさせたりする場面もあります。でもねぇこういう連中が最も厄介、よわっちいけど頭が切れるから。
対する警察側も政府要人を蜂の巣にされて黙っているわけにはいかないので、キッチリ幹部をパクります。このテロリストの上をいく指揮官に扮したブルーノ・ガンツ(「ベルリン天使の詩」、「ヒトラー最期の12日間」今やドイツの名優ですね)。彼が発するテロリストへ考え方は、重要な示唆を含んでいると思います。ま、それはご覧になってご確認を。
ブルーノ・ガンツといい、テロ集団の幹部を演じたマルティナ・ゲティック(「マーサの幸せレシピ」、「善き人のためのソナタ」)といい、現在海外に通じるドイツ人俳優の有名どころを揃えてのこの1本、気合が入っています。プロデューサーは「ヒトラー最期の12日間」の人だそうですから、今の世界に通じる作品を心がけたのでしょう、見事その試みは成功していると思います。ドイツだけに限らず、テロはいつどこで起こっても不思議ではないのが現在の世界。まさかテロリストの側から映画を作るわけにはいきませんから、客観的に連中を見据えたこの作品は貴重です。それにしてもとことんドキュメント・タッチで、ドイツ映画の真骨頂ですかねぇ、凄かったです。
現在(7/29/2009)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
ジャック・メスリーヌ/パブリック・エネミー No.1 Part.2
前作 で“社会の敵”になるまでが描かれた、二部作の完結編。今回はもちろん“末路”までの物語で、主演のヴァンサン・カッセルの変貌振りも楽しめます。もともと細面だったけれど、デップリと腹が突き出すまで太ったりしていて役者根性を見せつける。前作も豪華共演でしたけれど、今回もマチュー・アマルリック(「クリスマス・ストーリー」)、リディヴィーヌ・サニエ(「パリ、ジュテーム」)だけでなく、アンヌ・コンシニ(「潜水服は蝶の夢を見る」)などチョロッと出てきたり、「ジェヴォーダンの獣」のサミュエル・ル・ビアンが久しぶりにごくフツーだったりして。実録だけに当時のフランスの政治的背景が絡んでいるみたいなんですけれど、無知なのでサッパリ分かりませんでした。
しかし「バーダーマインホフ 理想の果てに」と似たり寄ったりで、革命を口にするけれどチェ・ゲバラとは明らかに違う。どちらかというと、生々しい部分を削いだら一番最初の「ルパン三世」に近いかもしれません。なにせ主人公ジャックは変装の名人で、大胆不敵で女に目がない。ガン・アクションと化け放題だけにヴァンサン・カッセルとマチュー・アマルリックはやりたい放題。ただ犯罪者に対しては面子もかけているのでしょう、フランス警察はやっちまうんですねぇ、ラストはビックリする。犯罪者に感情移入するための描写ではなくて、あくまで実録風の印象を持たせるため、主人公の家族が時折出てくるんですけれど、その部分はホッとします。「エリザベス」の頃と比べるとヴァンサン・カッセルは完全に大人の役者になりましたね。
オススメ★★★★☆