ベンジャミン・バトン 数奇な人生
老人の身体で生まれ、年をとるごとに若返っていく男の年代記。物語は第一次世界大戦から始まり、ハリケーンカトリーナが接近する現代まで。まるで「カメレオンマン」(ごめんなさいレンタルDVDありません)や、「フォレストガンプ一期一会」を思い起こさせる内容で、じっくりと見せてくれます。ただこの作品は「フォレストガンプ一期一会」のようにアメリカ現代史を追うのではなく、実に興味深い数奇な人生を歩んだ男の生涯に焦点が絞られているところが特徴。その意味では皇帝として生まれ、庭師として生涯を終えた溥儀を描いた「ラストエンペラー」 の方が近いかもしれません。
お話しとして面白いかもしれないけれど、映像化となるとエライことになります。それを可能にしたのが最新VFXで、どんどん若返っていくブラッド・ピットは圧巻、20代の彼が眼前に出現した時は呆然としてしまいました。また「バベル」でも夫婦役を演じたケイト・ブランシェットだってすごい。10代の娘から死を間近に迎えた老婆まで、芝居が上手くなきゃとてもじゃないけれど見ていてシラケてしまいます。
かのロバート・デ・ニーロが「レイジング・ブル」で見せた脅威の変化を超える成果を目撃することになります。加えて「オルランド」とか「コンスタンティン」 では人間以外の役だったティルダ・ウィンストンも、その美貌が堪能できたので嬉しかったですね。(そういえば「オルランド」って男性から女性に変わって何世紀も生きる人のお話でした)ケイト・ブランシェット の娘役で登場のジュリア・オーモンドにしろ、この作品には演技と美貌が申し分ない人が出ていて、ヴィジュアル重視の監督デヴィッド・フィンチャーの真骨頂と言えるかもしれません。
それにしても「セブン」 以来ダークな世界を最新のヴィジュアルで描いてきたデヴィッド・フィンチャー 。この最新作は長年のファンとしては本当に興味深い素材選び。ある種の転換点になる1本かもしれません。レオス・カラックスが「ポンヌフの恋人」(ごめんなさいレンタルDVDありません)の後にアメリカ文学のハーマン・メルヴィル原作「ピェール」から「ポーラX」(ごめんなさいレンタルDVDありません)を撮ったように。この作品もスコット・フィッツジェラルド(アメリカ文学としては重要人物)の短編から作られている。案外インテリな側面がうかがえて、この後の彼の作品は楽しみ。ただ暗いヴィジュアルのサスペンスばかり撮ってられないですからね。現実を反映した暗い映画が多い中、いろんな要素が混ぜ合わさった大人が楽しめるファンタジーとしても成立している優れもの。アカデミー賞を獲ったとしても不思議ではありません。
現在(2/7/2009)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
擬似ドキュメントの形式を用いて、世間を風刺、合衆国の歴史(禁酒法の時代から第二次世界大戦まで)を見ているような気になる。シャレそのものの、ウディ・アレンの代表作。身近にいる人間に反応して化けてしまう体質を持つゼリクは、歴史的場面にたびたび登場する。しかしすべてホラの爆笑モノで、スコット・フィッツジェラルドやローマ法王などと一緒にいたかと思うと、ヒトラーの後ろにいたりと当時の合成技術をフルに発揮。
「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」にも出てくる知識人スーザン・ソンタグまで出してきて、証言させたり、古臭いフィルムを使用しているように見せたりと徹底している。このスタイルは「フォレストガンプ一期一会」でも使われているだけに、アレンの先駆者ぶりを証明している(「アイム・ノット・ゼア」 は一捻りしてある)。話には聞いていたし、映画通は面白いと絶賛なので、DVDで観られたのは嬉しい。ホントに気楽に観ることができるだけでなく、ウディ・アレン作品の入り口としてもオススメです。
オススメ★★★★☆