シルク 1/20
バイオリンが主人公の「レッドバイオリン」(すみませんレンタルできません)が好きだったので、その監督フランソワ・ジラールの次回作が楽しみだったのですけれど、いつの間にか10年が過ぎてしまっていたのですね。しかし待った甲斐ありというか、久しぶりに映画を堪能できる幸せな時間が過ごせます。
19世紀フランスから遠路はるばる、この世の果て“日本”へ蚕の卵を買い付けに行く青年の物語は静かに美しく描かれます。旅の描写は絶品で、日本の描き方にしても文句のつけようがありません。「ラストサムライ」もそうでしたが、良く研究されています。また映画を彩る坂本龍一の音楽が素晴らしい。もし彼の参加がなかったら、この作品は成立していないかもしれません。それほどに身体に染み入ってくるような曲の数々はまさに芸術品。この人の場合、根性入れて本気で作曲すると、楽曲が凄すぎて映画を喰ってしまうことがあるので要注意です。しかし今回は彼の音楽に負けない映画が作られた幸運なケース。
そして海外の作品に出演することが多い日本人俳優はそれぞれさすがの演技を披露。「バベル」に続いて役所広司の存在感はなかなかのものだし、「力道山」でもその美貌が全開でしたが、中谷美紀は“フランス在住の日本人”を無理なく演じられるのですね。セリフが全くない新人の芦名星も、なんだ探せばこの国にもまだまだ本物の女優がいるじゃないかと安心させてくれます。この人は物語のキーパーソンですからね、たいしたものだ。
グローバル化が進むと“外部”のない世界になるそうですが、まさに当時の日本は世界の果て、外部の国だったわけです。その辺境の“神秘の国”での出来事は世界を共有していた人々にとっては発見なのでしょう。全体として「ラストサムライ」に良く似た印象があるのはその為かもしれません。今や映画の中でこそ未知の国でしたが、製作の過程で研究し尽くした作り手にとってはもはや既知の国。天皇陛下を描いた「太陽」にしても、第二次大戦下のこの国を描いた「硫黄島からの手紙」にしても、現代日本の衰退を描いた「バベル」にしても外国映画ですから。そこに描かれる“日本”はもはや妙な国ではありません。我々は外国映画を通じてこの国を発見する時代に突入しているのですね・・・。
音楽、映像共に映画を堪能する時間が約束されているこの作品。タイトルの通り絹のごとき繊細さが身体に染み入ってくるような素晴らしい1本です。この作品をご覧になってこの国の美しさを再発見するのもよいかも。
現在(1/20/2008)公開中
オススメ★★★★☆
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