マンデラの名もなき看守
今現在(21世紀)でも先進諸国から蹂躙され続けているアフリカ。紛争(「ホテル・ルワンダ」)による武器消費(「ロード・オブ・ウォー」)、生体実験(「ナイロビの蜂」)、鉱物の略奪(「ブラッド・ダイヤモンド」)。もちろんそれは今に始まったことではなくて、20年前には人種隔離政策によって、公然と人種差別が行われていたのが南アフリカ。
ただ渦中の人物、ネルソン・マンデラについての映画は未だに作られてはいない。この映画の謳い文句に-マンデラが初めて自身の人生の映画化を許した作品-とあります。前世紀に登場した傑出した人物であるにもかかわらず、映画にならなかったのは本人が自身の神格化を嫌ったのかは定かではありませんが、確かに不思議といえば不思議。
もちろんこの作品は彼を神格化する目的で作られていないのは明白。だって主人公は彼の看守役だった人物なのですから。しかし計らずもネルソン・マンデラの人となりを知る映画となっております。では主要テーマはどうかというと、人種隔離政策から撤廃へと至る時代をマンデラとは反対に位置する立場にある男の目を通して描いている。
人種差別などという蛮行が、20年位前まで堂々とまかり通っていた事実はやはり愕然とするしかない。ただついつい大河ドラマ風になりがちなテーマを、ごく普通の人間の目を通して日常生活を中心にして描いていることがこの作品の最大の魅力。 かつてアパルトヘイトを扱った「ワールドアパート」 (ごめんなさいレンタルありません)という作品も、小品でしたが心に刻まれる一本でした。この作品が目指す方向は見事的中。
主演したジョセフ・ファインズ(「恋に落ちたシェイクスピア」)にしてもダイアン・クルーガーにしても根性入ってます。2人ともハリウッドの大通りを行きそうな俳優なのに、インディペンデント(貧乏映画)に平然と出ている。しかし低予算だからこそ、その実力は問われるわけで、見事20年間にわたる夫婦の役を自然に演じている。
特にダイアン・クルーガーなんて「ミシェル・ヴァイヨン」とか「ナショナル・トレジャー」とかに出ていれば難なくスター街道まっしぐらなのに、どういうわけか「ハンティングパーティ」 にも出たりしてね・・・。また「24」 のアメリカ大統領、デニス・ヘイスバートは誠実で不屈のマンデラをちゃんと体現していました。似ているかどうかはこの際関係ない。
20年前のことですから決して“昔のこと”ではないし、その時代に繰り広げられていた愚行は形を変えて現在でも進行している。それはご覧になるとお分かりになります。人種差別がなくなっても決めつけたり、偏ったりする考え方はなくなっていないし、嘘くさい政治家は後を絶ちませんからね。小品でも意義ある1本、オススメです。
現在(5/23/2008)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
アパルトヘイト(南アフリカ共和国がとっていた人種隔離政策)を知るためには実に良い作品で、当時の様子が生々しく描かれています。2人の演技派(ケビン・クライン、デンゼル・ワシントン )の実力が発揮されていて素晴らしい。もちろん問題提起もされているけれど、後半の展開(ケビン・クライン扮する ジャーナリスト 一家の必死の逃亡劇)はサスペンスフルで見応えアリ。監督のリチャード・アッテンボローはさすが 「ガンジー」 を撮った人だけあると感心。
オススメ★★★★☆