サラエボの花 12/7
ヨーロッパから遠く離れている島国のこの国では、ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争と聞いてもピンときません。しかしかの地ではそれが大惨事であったことは作られた映画によって知ることが出来ます。「マイティ・ハート愛と絆」の監督マイケル・ウィンターボトムの「ウェルカム・トゥ・サラエヴォ」が代表的ですが、ハリウッドでも比較的良心的な「ピースメイカー」が作られました。またジャン・リュック=ゴダールが「アワー・ミュージック」を、レオス・カラックスが「ポーラX」(DVDレンタルできません)を撮っています。変わり者と思われている彼らでさえ、この題材は避けて通れない深刻な惨事だったのでしょう。そして今回サラエヴォ生まれのヤスミラ・ジュバニッチが監督。
映画の前半はごく普通の母と娘の日常を描いているように見えます。もちろん背景には現在のボスニア・ヘルツェゴビナが、貧乏のどん底であることは明白。戦争がそれまでの社会や価値観を破壊してしまうところも見て取れる。そして徐々に母の過去が明らかになってきます。思春期の娘には信じられない出生の秘密があったわけで・・・。観ていてイザベル・コヘット(コイシェとも表記される)監督作品「あなたになら言える秘密のこと」を思い出しましたが、戦争は必ずといって良いほどこの種の悲劇を生む。ただほんとうに感心してしまうのは絶望に打ちひしがれて、映画を終わりにしないところ。女性でなければ描けない視点と言うのも確かにあるのです。反戦映画をコピーにして売り込むアメリカと、この国の徴兵映画とは一線を画する。(もちろんクリント・イーストウッドの2作(「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」)は違いますけれど)。「マイティ・ハート愛と絆」でアンジェリーナ・ジョリー扮するマリアンヌ・パールは無神経なTVの司会者に、あなたはそれでも人間か?と問う場面がありましたが、人種、国籍に関わらずそんな風に言われる人間にはなりたくないものですね。
男が始める戦争によって無数の非人間的な行為(犯し、殺す)が量産される。これが動かしがたい事実で、いくら姑息にも教科書を書き替えたって消えてなくなるものでもない。ま、国家はいつだって非人間的ですけれど(おっと失言)。直接描写はないものの、描かれている内容は本当に胸が張り裂けるようなもの。ですからポロポロと泣いたりしない本物の感動作です。ストレートな反戦映画ではないけれど、戦争を訴える作品です。
現在(12/7/2007)公開中
オススメ★★★★☆
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