ミリオンダラー・ベイビー 5/30
大方の批評はこれがただの拳闘映画ではないと論じる。たぶんそうでしょう、でもボクシング映画としてもたいしたものです。主演のヒラリー・スワンクは相当なトレーニングを積んだはずです。完成度は「ボクサー」のダニエル・デイ・ルイス以来じゃないでしょうか。彼女がボクサーになりきっている横で、2人の爺さんの芝居がもう絶品。クリント・イーストウッドは言うまでもありませんが、モーガン・フリーマンがただ座って新聞読んでいるだけで堪りませんね。本当ならアメリカ映画の重鎮なのに、妙に場末のボクシング・ジムが似合う。
今年のアカデミー賞にノミネートされた作品はどれをとっても良い出来だったので、本命のこれはただ事ではないはずだと思っていたら、実はかなり気楽な感じに作られていて意外。美麗な画面なら「ネバー・ランド」の方が上かもしれません。何気ない日常の描写ならひょっとすると「サイドウェイ」に軍配が上がるかもしれない。偉大な個性を描いたドラマティックな作品としてなら「レイ/Ray」や「アビエイター」にはとても適いっこない。しかしここに描かれている場末の、それももうこれ以上どこへもいけなくなってしまう人々をごく普通に描き出しているこの作品は凄いと思う。見ていて泣いたりしないから余計に。最大のテーマはもちろん“生き様”であり“死に様”であります。実は今のアメリカで沸騰しているのかこの命にまつわる論議。もちろんこの作品は一つの答えを出しているのですけれど、それはあくまで見ている側の受け方しだいとも言えます。ヒューマニズムという厄介なテーマに真正面から向き合っているクリント・イーストウッドの姿勢は大したものです。
なおこの作品が他のどの作品にも引けをとっていないのは実は物語だけではありません。もはや残り少ない本物の映画監督であるクリント・イーストウッド
だけが描ける陰影のある画面はノミネートされた作品中、唯一“映画”を感じさせるものでした。映画は光と影で出来上がっています、残念ながらDVDやビデオがどれだけ性能を向上させても表現できない、数少ない映画の特質です。
現在(5/30/2005)公開中
オススメ★★★★☆
ミリオンダラー・ベイビー [DVD]
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