アビエイター 4/11
惜しくもアカデミー賞は逃しましたけれど、十分楽しめる偉人伝の一本です。ファンの方には申し訳ないですけれど、マーティン・スコセッシ監督はどちらかと言うと、雇われ監督の位置で良い仕事をする職人気質の人ではないかと思います。もちろん映画について優れた知識を持つ映画人ですし、技量は抜群。
ただディカプリオがプロデューサーってところが引っかかっている方も世間には多いはず。しかし一見ベビー・フェイスですから、お坊ちゃん風に見えますけれど、かなり映画が好きなのはこの一本で証明されています。当たったし、アカデミー賞を獲った「タイタニック」が彼にとってはあまり良くなかったみたいで(関係者はみんな沈んじまいましたよね)、人気は獲得したものの併せてギャラが高騰。未だ若いのに出演作が激減してしまう、という不幸に見舞われたのは容易に想像が出来ます。
ところが出させてくれなきゃ自分で作るとばかりに、自ら製作してエライ監督マーティン・スコセッシを呼んできて撮らせる。ここら辺は興味深いことにこの作品の主人公ハワード・ヒューズ氏に似ている部分があります。ま、別段彼は好きな俳優ではないですけれど、面構えは甘さがなくなってきつつあるし、ひょっとすると化けるかもしれません。 さてアメリカの大富豪、ハワード・ヒューズってところまでは知っている方も多いと思いますけれど、実像はまさに想像を絶する素っ頓狂。「アレキサンダー」の大王様も相当におかしな人でしたけれど、この20世紀を代表する人物もかなりヤバ線です。
映画監督で成功を収めて航空業界に殴り込みをかけたんじゃなくて、映画を撮りつつ飛行機も作って、飛ばしたいから航空会社を買収、目障りなパンナム航空もやっちまえと寝る間も惜しんで働きっぱなし。少なくとも一途で働き者で、才能に溢れてハンサムですから、極上の女、つまりはハリウッドの女優を次から次へとつまみ食い。一体いつ休んでいたのかと思うくらい。
とにかく金の賭け方は半端じゃなくて、映画一本撮るのにキャメラを24台持ってきて、足りないからライバル会社に貸してくれと頼む。飛ばして撮ったは良いけれど、臨場感がないから雲を持って来いとなる。気象学者を雇って、その雲が出るまで延々8ヵ月も待つなんてまず今の映画じゃあ考えられないですね。つまりはこの時期のアメリカ映画が最も隆盛を誇っていたことが図らずも露わになっています。今の映画のなんと貧弱なこと。
そして“早い飛行機が作りたい”と思った途端に航空会社を買収。ま、ここまでだったら並みの野心家なんですけれど、自らテストパイロットになってしまう。タイトルが「アビエイター」(飛行家)になったゆえんです。そして初めてだから事故っちゃう。こんなことを延々繰り返して有り金全部つぎ込んで、好き放題やり放題。もちろんやっかみもありますから、妨害工作をしてくるライバル会社(航空業界ナンバー・ワンのPAN
NAM)もあり。しかし自分の欲望に忠実な狂人だけに、上院議員にまで喧嘩を売る。何とかは死ぬまで直らない、何とかと天才は紙一重、まさに彼こそその実例であります。
普通政経方面の人を描いた作品は、運命に翻弄される一生って話の顛末ですけれど、この人だけは“キ印”で、極めて音楽方面の人に近い。もちろんこんな人物の話を小学生に読んで聞かせるわけにはいかないですが、大人は本当に楽しめるし、エライ人間がこの世にいたもんだと感心させられる一本です。少なくとも2時間半退屈せずに見ることが出来るし、圧倒させられます。今年のアカデミー賞にノミネートされた3本(「レイ/Ray」、「ネバーランド」、「サイドウェイ」)を観てきましたが、どれも秀作、傑作揃いで今年のアカデミー賞は本当に偉いですなぁ。
現在(4/11/2005)公開中
オススメ ★★★★☆
アビエイター 通常版 [DVD]
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